心理学をビジネスに活かそう!(15)不合理な信念(Irrational Belief)

皆さんには、「こうあるべきだ」「普通こういうものだろう」と思うことにはどんなことがありますか。「時間は守るべき」「マナーは守るべき」「普通年長者を敬うものだろう」など、いろいろあるのではないでしょうか。
■不合理な信念(Irrational Belief)
■「信念」とは?
私たちには、ある価値基準を基にして、「信じること」あるいは「信じないこと」を決めています。このようなシステムを「信念体系(Belief system)」と呼んでいます。この信念体系によって「信じる」と決めたものが「信念」です。
さて、どんな例があるでしょうか。
「約束は守るべきもの」
「普通、約束時刻の5分前には集合するよね」
「人は礼儀正しくしなければならない」
他にもたくさんあることでしょう。
このような信念は、いつから、どうして、そう信じるようになったのでしょうか。
「親や会社・上司から教育されて・・・」というものもあるでしょう。
一方で、「いつから、なぜそう信じるようになったのか」、自分でもハッキリしないものもあります。
先の「信念体系」は普段、ハッキリと意識することが少ないため、私たちの「信念」も、「いつから、なぜそう信じるようになったのか」、自分でもハッキリしないまま定着していることが多いようです。
「約束は守るべきもの」 ・・・という信念は、その人にとっては「当たり前」であり、「常識」「普通」のことなのです。
そして、人からも賛同されることが多く、約束を守った自分は誇らしいし、守れなかった自分は不甲斐ない思いを経験し、さらに「約束は守るべきもの」という信念は強化されていくようです。このように、「信念」が自分にとって健やかで望ましい言動に結びつくことは、喜ばしいことです。
ところが、その人の「ある信念」が、過度に、または不適切に発揮されていくと、困ったことが起きることもあります。
「納期(約束)は絶対に守るべきもの」
「納期(約束)を守るためには、少々の犠牲はやむを得ない」
となるとどうでしょうか。
「何を犠牲にしてでも・・・」のように、過度に「約束を守るべき」が先行してしまい、徹夜や休日返上などの長時間労働を繰り返してでも納期を守ろうとしたり、あるいは、品質を落としたり、必要な検査手順を手抜きしてでも時間を節約して納期だけを守ろうとすれば、どうでしょうか。労働災害やコンプライアンス違反のような事態をも起こしかねません。
行き過ぎた「信念」に基づく言動は、本人にも、周囲にも悪い影響を及ぼしてしまうことがあります。日頃は合理的な信念だったものが、場合によっては「不合理な信念(Irrational Belief)」となることがあります。
■理性感情行動療法(REBT療法)
臨床心理学者のアルバート・エリス(1913-2007)が唱えた心理療法です。
「人間の不適応な感情・気分・行動は、出来事から直接引き起こされるのではなく、人の捉え方や解釈の仕方である信念体系によって、引き起こされる」としました。
特に、「~しなければならない」のような形で表現される「信念」が「不合理な信念(Irrational Belief)である場合、自分自身で反駁し否定していくことの重要性を説きました。
■不合理な信念(Irrational Belief)を解消するために
「あるべき姿」「普通のこと」だと信じられている「信念」。すべて、日頃のその人にとっては正解です。
今、目の前で起きていること。
頑なにその信念を貫きながら観ているとしたら。
それによって、望ましくない思考や感情、そして言動を引き起こしているとしたら。
その信念を修正することで、柔軟に状況を捉えることができるようになります。
「当てはまらない人もいるのかも・・・」
「今、この状況では、別のことが重要なのかも・・・」
「例外があっても良いのかも・・・」
→「納期(約束)も大切だが、社員の健康や安全も大切」
→「納期(約束)も大切だが、手を抜かず、正しい手順を踏んで品質を守ることも大切」
このように、不合理な信念を合理的な信念に修正し、健やかな思考・言動を生み出せればOKです。
ビジネスの場面だけではなく、日常の生活や人づき合いでも同様です。
自分の「信念」を少し柔軟に見直すことで、健やかな精神状態や良い対人関係を築けるようになりたいものですね。